【ネタバレ】 「時間からの影(超時間の影)」H・P・ラヴクラフト

THE SHADOW OUT OF TIME (1935)
Howard Phillips Lovecraft



ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3))
東京創元社
H・P・ラヴクラフト

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★登場する怪物★ イスの大いなる種族、盲目のもの

ラヴクラフト3大長編の1つにして、クトゥルウ神話を代表する名作「時間からの影」、やっとこさネタバレする時が来ました。
科学の発達が本格的に始まったラヴ先生の時代、宇宙の真の姿もようやく、人類の前におぼろげに姿を現してきた頃。
繊細な神経の持ち主にとっては、何億光年という無限の宇宙の広がり、何十億年という悠久の時間の流れが怖い。
あまりにも人類の理解を超越していて、恐ろしくて夜も眠れない。
クトゥルウ神話の根幹を成す「宇宙と時間に対する恐怖」ですが、ちっとも繊細じゃない管理人にとっては、「はあ・・・?」という感じです。
この宇宙で1番怖いのは、「お金がなくなること」「病気になること」だと思うんですが、どうでしょう・・・
そんな凡人にも、「宇宙と時間に対する恐怖」をわかりやすく解説してくれるのが、本作であります。

例によってミスカトニック大学の教授が主人公ですが、政治経済学を教えるピースリー教授は、1908年5月14日木曜日、突如として人格が豹変してしまった。
どう豹変したかというと、まあ一口でいえば「宇宙人っぽい感じ」に(笑
BOSSのCMに出てくる「この惑星では・・・」の人みたいになってしまったのだ!
まったく別人となってしまった教授は妻と離婚し、地球のあらゆることを調べあげ、「ネクロノミコン」などの魔道書を読み漁り、未知の砂漠やヒマラヤなど秘境を探検しまくったのである。
そして1913年9月27日、教授は自宅で倒れ、目が覚めると元の人格に戻っていた。
その間の5年以上の記憶はまったく覚えていないのだが、時おり恐ろしいビジュアルの悪夢を見る。
人類の想像を超越した、おぞましい怪物と建築物・・・

やがてジワジワと戻ってくる、正気とは思えない記憶
ピースリー教授は、1億5000年前に地球を支配していた異生物「イスの大いなる種族」によって、肉体を乗っ取られていたのだ!
それは時間を超越する人格交換というテクノロジー。
「イス」の1人が教授に乗り移って地球の調査をしている間、教授の精神は1億5000年前の「イス」の肉体に宿っており、いわば囚人として過ごすことになる。
その「肉体」というのが、とんでもないデザインなのだが、「イス」の目的はあくまでも「知識の収集」であって、迷惑だが決して邪悪な種族ではない。
教授も囚人とはいいながらも、自由に図書館で勉強したり、壮大な建築物の内部を探検したり、旅行にいくことさえ許されていた。
その結果、教授は人類の想像をはるかに超えた地球の歴史宇宙の歴史を知ることになる。
地球には人類以前にも栄えた知的生命体はたくさんいるし、人類滅亡後にも他の種族が栄えるであろう。
宇宙には人類より遥かに進んだ宇宙人もたくさんいるし、ハッキリいって地球人類など、宇宙から見れば(そして地球の悠久の歴史から見れば)、ゴミのような存在にすぎない。
これこそがラヴ先生が書きたかった真のテーマでありましょう。
人類の文明や社会など、ゴミのようなもの、だから社会に溶けこめなくても問題なし!
まさに現実逃避中2病の真髄。
と同時に、「人間は神によって造られた」と信じてきた西洋文明にとって、「客観的に見て、人間なんてゴミだから」という考えは、根本から存在を否定されるような、恐るべき思想でありますな。

やがて教授は、「イス」が恐れる、不気味な窓のない黒々とした塔の存在を知る。
それは「イス」よりも古い、体の一部だけが物質風のような音を発する「盲目のもの」という先住種族が潜む恐怖の塔であった。
教授「イス」にならって、黒々とした塔には近づかないよう気をつける。
そうしてるうちに、「イス」の未来世界における調査は終わり、教授の精神は現代へと戻されたのである。


★衝撃の結末★

以上のような記憶を、もちろん教授は実際に起こった現実とは考えていない。
狂気によって生み出された妄想にちがいないと信じている。
だが、1934年7月10日に西オーストラリアの鉱山技師から届いた手紙が、教授を恐怖のドン底に陥れる。
砂漠のド真ん中に「模様のついた巨石」が大量に埋まってるという。
それは人類のものではない、超古代の巨石文明の遺跡・・・
その模様に激しく思い当たるフシがある教授は、ミスカトニック大学探検隊とともに現地へ向かう。
砂の下に眠る巨大遺跡は、まぎれもなく教授が5年の歳月を過ごした、1億5000年前の「イスの大いなる種族」巨大都市だったのだ!

ある夜、教授は突き上げる記憶の衝動を抑えられず、1人で遺跡の地下深くへと、入りこんでいく。
何を探しているのか自分でもわからなかったが、やがて「記録保管所」と呼ばれていた場所にたどり着く。
「イス」の囚人だった頃、「自分の住んでいた世界について、ありとあらゆる情報をノートに書く」という義務が課せられていた。
教授を含め、宇宙のあらゆる星・あらゆる時代から精神交換によって虜囚となった知的生命体の「情報ノート」を保管する書庫、それが「記録保管所」なのだ。
そこで教授は、まぎれもなく自分の筆跡で書かれた1億5000年前のノート(笑)を発見、すべては妄想ではなく現実だったと知り、愕然となる。
そのノートを証拠として持ち帰ろうと、地上を目指す教授
だが・・・ あれほど恐れていた「窓のない黒々とした塔」の開口部が、ぽっかり開いてるのを発見、名状しがたい恐怖に包まれる。
5本の丸い指からなる足跡が砂の上に残り、異様な風の音が響いてくる・・・
ラヴクラフトの生み出した最も不気味な怪物は、この「盲目のもの」でしょう。
この怪物から教授が必死に逃れるクライマックスは、生々しい悪夢感が漂う迫真の名場面
どうして助かったのか不明だが、砂漠に倒れているところを、教授は発見される。
もちろんノート(笑)は消えていたので、教授としてもどこまでが現実で、どこまでが悪夢なのか、まったくわからないのである。

科学の発達した種族が「紙とペン」で記録するというのが笑えますが、時代を考えればしゃーなしでしょう。
SFとも一味ちがう、単なる怪奇小説でもない、ラヴクラフトの真髄を味あわせてくれる名作です。











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