【ネタバレ】「流れよ我が涙、と警官は言った」フィリップ・K・ディック

FLOW MY TEARS, THE POLICEMAN SAID (1981)
Philip K. Dick



流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
フィリップ・K・ディック

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流れよ我が鼻水、と花粉症は言った

もし第2次世界大戦でドイツと日本が勝利していたら・・・
そんなパラレルワールドを描くP・K・ディックの名作「高い城の男」アマゾンが映画化(TVドラマ化)した!
が、予告映像を見ると日本を悪者にしたアクション映画みたいになってる?
原作小説はディックですから、反日とかアメリカ万歳とか、そんな単純なものでは決してありません。
「本物の世界VS偽の世界」というディック作品共通のテーマを、異なる歴史の流れを通して描くのが狙いなんだと思うけど。
こらアマゾン! ディックが反日作家みたいなイメージを植えつけるな!

そういうわけで久々のディック、円熟期の名作「流れよ我が涙、と警官は言った」を取り上げます。
この後からディックの心の病が徐々に悪化して作品のキティガイ・レベルも上がっていくのですが、本作ではキティガイになるギリギリ直前の(それでもだいぶ狂気は漂ってますが)まだじゅうぶんに読みやすい文章と物語になっており、大変オススメです。
そして例によって「本物の世界VS偽の世界」です。


*** ネタバレあらすじ ***

近未来の世界。
人気TV司会者にして有名歌手のジェイスン・タヴァナーは、かつてもてあそんだ新人歌手マリリンに逆恨み(?)され、メメクラゲみたいな有毒生物を投げつけられ病院行き。
しかし・・・ 目が覚めると、見たこともない安ホテルの一室にいた
しかもIDカードなど身分を証明できるものは一切なくなっている・・・(財布に金はタンマリと残っている)
警察国家となったこの時代のアメリカでは、身元不明者は即、強制労働キャンプ送りなのだ。
「けどまあ俺は有名人だし、なんとかなるだろう」と思っていたら・・・ どっこい、誰もジェイスン・タヴァナーなんて歌手は知らない!
彼の番組も存在しない!
ここはジェイスン・タヴァナーの存在しない世界なのだ・・・

と、ここまで読んでディックの愛読者なら、「ははあ。有毒生物の毒によってトリップしてるな。これは脳が毒に冒されて作りだした偽の世界なんだろう」と気づくはず。
ところがどっこい、有毒生物は関係ないんだなあ。
タヴァナー偽造IDを作ろうとして密告されたり、警察にマークされたり、恐ろしい体験をするハメに。


さてここでもう1人の主人公というか悪役(?)、バックマン警察本部長が登場。(別に悪い人ではない)
彼の妹アリスが実に強烈なキャラ!
重度のドラッグ中毒で常に面白いものを求める奔放な性格、兄のオフィスに入り浸っては悪さをしてバックマンを困らせるという、「干物妹」ならぬ「麻薬妹ありすちゃん」といったところ。
彼女はバックマン近親相姦の関係にあり(子供も産んでいる)、まさに「お兄ちゃんだけど愛さえあれば問題ないよね」を地でいく2人。

バックマンタヴァナーなる不審人物の報告を受け困惑していた。
情報センターに彼に関するファイルがまったく存在しなかったのだ。
何者かが彼のファイルを密かに抜き出したとしか考えられないが、そんなことをするにはよほどの権力者がバックにいないと無理な相談だ。
いったいどれほどの権力者が何の目的でタヴァナーの情報を隠蔽し、彼を街に放り出したのか?
ついに警察に連行されるタヴァナーバックマンと面会。
タヴァナーの話を聞いて「嘘は言ってない」と感じたバックマン、彼を釈放する。(ただし超小型カメラやマイク、小型爆弾をこっそり取り付けて)

釈放されてひと安心のタヴァナー、そこへ興味しんしんのアリスが現れ、タヴァナーの体からあらゆる小型ガジェットを取り外したあげく、自宅へと招待する。
自宅・・・ つまりバックマン警察本部長の家。
「私はあなたのファンなのよ・・・ あなたのレコードは全部持ってる」
なんと! アリスタヴァナーのことを知っているばかりか、LPレコードまで持っていた!
自宅では怪しいクスリを2人で服用するが、強すぎてタヴァナーはフラフラ。
一方のアリスは・・・ 浴室で白骨死体と化していた!
青くなってタヴァナーバックマン邸から逃げ出し・・・ 街を逃げ回るうちに、ある変化に気づく。
ジューク・ボックスには彼の曲が入ってるし、彼のサインを求める人もいる。
ジェイソン・タヴァナーが存在する本物の世界が戻って来たのだ!

だが、これが本物の世界なのだろうか?
本当のタヴァナーは身元不明の浮浪者で、クスリをきめた時だけ、彼が有名人として存在する妄想の世界へトリップできるのではないだろうか?
何が現実かわからなくなってくるおなじみの展開、やってきました。
でもそれはタヴァナーの取りこし苦労で、やっぱり彼は本当に有名人らしい。
混乱しているのはバックマンも同じである。
妹の死因自体は薬物中毒であり、いつかはこうなるとわかっていた。(白骨に見えたのは幻覚)
だがタヴァナーの情報ファイルが今頃になって届くし、聞いたこともないタヴァナーのTV番組が昔から放送されてるらしいし、まったく訳がわからない。

アリスの死体を調べた鑑識課の男が、今回の事件の真相を説明してくれた。
この宇宙には無限大のパターンのパラレルワールドがあるが、人間の脳がそのうちのひとつの世界を選択している。
アリスが最近手を出したドラッグは脳に影響を与え、それまでの世界とは別の世界を選択させてしまう作用がある。
しかもクスリを飲んだ本人だけでなく周囲の人間をも巻き添えにして、別の世界へと移ってしまうという厄介なシロモノだ。
タヴァナーアリスとの面識は今回の事件までなかったが、アリスが彼の番組のファンであったことから、アリスの脳が世界を選択する際の座標点のひとつとなっていたので・・・ アリスの別世界トリップに引きずられてしまった・・・
むむむ、よくわからんが、要するにアリスが原因ということです。

さてバックマンとしては、この事件がマスコミに報道されると、妹が薬物中毒者であることや近親相姦のことまで世間に知られ、非常にイメージが悪くなって困る。
そこでタヴァナーが無実なのはわかってるけど、彼を殺人犯に仕立て上げよう。
しかもバックマンの政敵が彼を操っていたことにすれば、政敵にダメージが与えられるし一石二鳥。
この非情な決定を下した後、バックマン警察本部長タヴァナーのために涙を流す。
タヴァナーはせっかく本来の世界に帰ってこれたのに、またしても災難が待ち受けるのであった。(短い最終章によれば、裁判の結果タヴァナーは無実となったようだ)

本作は今はハヤカワから復刻されましたが、昔はサンリオSF文庫から出てたんだよね。
こんな本を出していたとは、なかなか侮れませんサンリオ

他のディック作品はこんなの取り上げてます

「高い城の男」
http://puripuriouch.at.webry.info/201601/article_3.html
「火星のタイム・スリップ」
http://puripuriouch.at.webry.info/201209/article_33.html
「死の迷宮」
http://puripuriouch.at.webry.info/201709/article_5.html
「流れよ我が涙、と警官は言った」
http://puripuriouch.at.webry.info/201508/article_1.html
「聖なる侵入」
http://puripuriouch.at.webry.info/201407/article_6.html
「ティモシー・アーチャーの転生」
http://puripuriouch.at.webry.info/201703/article_18.html

映画化作品
「ブレードランナー」
http://puripuriouch.at.webry.info/201212/article_10.html
「トータル・リコール」
http://puripuriouch.at.webry.info/201403/article_16.html
「マイノリティー・リポート」
http://puripuriouch.at.webry.info/201707/article_16.html











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