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zoom RSS 【ネタバレ】 「ユービック」 フィリップ・K・ディック

<<   作成日時 : 2018/08/10 21:28   >>

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UBIK (1969)
Philip K. Dick



ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)
早川書房
フィリップ・K・ディック

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超能力バトルか? と思わせて、そこは現実でないどこか

高校時代、管理人が初めて読んだディック小説が本書「ユービック」です。
後の作品ほど狂ってなくて優良なSFとなっており、さすが代表作の1本。
久々に読み直してみましたので、サクッと内容を知りたい方のためにまとめてみましょう。

ディック小説は常に出発点となる世界観がユニーク。
今回はテレパスや透視能力者など、超能力者がふつうに存在するようになった未来世界。(ありがち?)
一方、超能力を無効にする「反超能力者」も存在する。
この設定はディックが大いに影響を受けたというヴァン・ヴォークト「スラン」からいただいてますね。
ちなみに山田風太郎「甲賀忍法帖」に登場する、「あらゆる忍術を無効にする」瞳をもつ朧さま(映画版では仲間由紀恵、アニメ版では水樹奈々が演じた)の能力も「スラン」が元ネタでしょう。
実業家ランシターは、この「反超能力者」たちを集めて、超能力を持ったスパイや犯罪者から市民を守る警備会社を立ち上げる・・・
実はこの超能力ウンヌンといった話は物語の中であまり重要ではなく、SF読者を釣るための釣り餌に過ぎないのです・・・
重要なのは次の設定。
ランシターの若くして亡くなった妻エラは、今はスイスにある冷凍睡眠施設(「安息所」と呼ばれる)のカプセル内に保存されている。(ありがち?)
100%完全に死ぬ前に保存された死者(「半生者」と呼ばれる)は、わずかながら生命エネルギーを残しており、施設を訪れた身内と通信することができる。
(ただし通信できる時間には限界があり、生命エネルギーを使い切ると完全な死人となる)
ランシターは仕事で困難にぶつかるたび施設を訪れ、聡明な妻を眠りから呼び起こし意見を聞くことにしていたが・・・

さて、こういう設定の世界から物語が始まり、さらに異常な展開となっていきます。
つねに超能力者の動向を監視しているランシター警備会社だが、ある日地球上からいっせいに超能力者たちの足跡が消えた。
どうやら地球を離れ、月に集結してるらしい。
ランシターも選び抜いた「反超能力者」たちを召集、彼らとともに月に乗りこむ。
だが、これは超能力者サイドの罠であり、爆弾が炸裂、ランシターが殺された!
彼の右腕、超能力測定技師ジョー・チップは反超能力者チームを率いて月を脱出、地球に帰還。
ランシターの遺体は冷凍保存したが、100%完全に死ぬ前に保存が間に合ったかどうか不明。

さ、ここまではいかにも昔のSF小説っぽい、ワクワクの序盤ですが・・・
ここからがディックの本番。
地球に帰ってきたチップたちを待ち受けるのは、前代未聞の異様な体験。
周囲にある機械の型式がどんどん古くなっていったり、通貨が古銭になってしまったりする「形態逆行現象」。
これは時間ともエントロピーとも関係ないと思いますが、レトロなものをマニアックに愛するディックが、なんとも楽しそうに描写しております。
この現象のためにチップたちは非常に不便な思いをするわけですが、未来世界の車よりクラシックカーの方が運転するのが楽しかったり、開閉するたびに料金を徴収するAI搭載ドアが単なる木のドアになって逆に便利だったり笑

ただ退行するだけでなく、チップの財布の中のコインがランシターの肖像画が刻印された「ランシター通貨」になってしまったり。
トイレの落書きに「ワシは生きてる、君らは死んでる」というランシターからのメッセージが残されていたり。
ディック・ワールド全開になって参りました。
さらに仲間たちが次々と、ボロ雑巾のようなカスカスとなって死んでいく恐ろしい事態も発生。
まるで何者かが、チップたちの生命力を食いつくしているような・・・

実は、月の爆弾で死亡したのはチップたちであり、ランシターが唯一の生存者だったのだ。
彼は部下の遺体を地球に持ち帰り、ただちに冷凍保存。
爆弾の爆発以降にチップらが体験したのは現実ではなく、すべて半生者たちが共有する意識世界での出来事だった。
生命エネルギーが少ないので、物の形態が維持できず「退行現象」が起きてしまうらしいが、この理屈はツッコミどころ満載ですね笑
そして、この世界には彼らを狙うモンスターが存在する。
それは幼くして事故死、冷凍保存されたジョリー少年
若いので生命エネルギーを多く残しており、両親が面会に来ないので退屈して、他の半生者の意識に侵入しては残っている生命を吸い上げるという、極悪非道なお坊ちゃま。
そんなジョリーに対抗するレジスタンスが、この意識世界に存在する。
リーダーはランシターの妻エラであり、たびたびチップを導き、救ってきた。
レジスタンス組織は「ユービック」と呼ばれる不思議なスプレー缶を製造しており、これを吹きかけると形態退行が止まり、死にかけていた半生者も生きかえる。(ただしスプレーの量に限りがある)
転生の時が迫っていたエラは、チップユービックの製造やジョリーとの戦いを引き継いでもらい、新たな命として生まれるべく消えていく。(このへんはチベット仏教の影響)

ところでユービックとは「神の遍在」を意味するそうで、最終章でユービックそのものが神であると示唆しています。
ディックのSFは「SFの仮面をかぶった神学小説」である場合が多く、神とか輪廻転生とか科学的解釈抜きで純粋に宗教理念としてよく出てきますね。(そういう作品はたいてい傑作)
単なるSFにはない深みを感じるのは、こういう部分でしょう。

本作のラストは、ランシターが財布の中にチップの肖像画が刻印されたコインを見つける・・・ という場面で終わります。
これはランシターが死亡して半生者の世界にやって来た、そしてチップが(かつてエラがしたように)ランシターを導く・・・ と解釈しています。
が、ネット上ではラストをめぐって議論が分かれており、実は初めからランシターが死んでチップが生きていた、なんて説も見ますが、それはないでしょう。
最終章はオマケのような付け足しのブラックユーモアであり、重要なのはユービックが神としての正体を現すエピグラフの部分だと思いますが。

ともあれ、読みやすいしヒネリもあるし、ディック入門に向いてる1冊。
が、ディックの真髄はこんなもんじゃありませんぞ。


フィリップ・K・ディック作品のネタバレ
「高い城の男」
http://puripuriouch.at.webry.info/201601/article_3.html
「火星のタイム・スリップ」
http://puripuriouch.at.webry.info/201209/article_33.html
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
http://puripuriouch.at.webry.info/201412/article_5.html
「最後から二番目の真実」
http://puripuriouch.at.webry.info/201710/article_11.html
「死の迷宮」
http://puripuriouch.at.webry.info/201709/article_5.html
「流れよ我が涙、と警官は言った」
http://puripuriouch.at.webry.info/201508/article_1.html
「聖なる侵入」
http://puripuriouch.at.webry.info/201407/article_6.html
「ティモシー・アーチャーの転生」
http://puripuriouch.at.webry.info/201703/article_18.html

フィリップ・K・ディック原作の映画化作品ネタバレ
「ブレードランナー」
http://puripuriouch.at.webry.info/201212/article_10.html
「トータル・リコール」
http://puripuriouch.at.webry.info/201403/article_16.html
「マイノリティー・リポート」
http://puripuriouch.at.webry.info/201707/article_16.html
「ペイチェック 消された記憶」
https://puripuriouch.at.webry.info/201803/article_12.html











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