【ネタバレ】 「ヴァリス」 フィリップ・K・ディック

VALIS (1981)
Philip K. Dick



ヴァリス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
フィリップ・K・ディック

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P・K・ディックは狂ったのか、それとも神を見たのか

雑誌「ムー」に書いてあることを素直に信じていた「中二病」時代、落合信彦の著作になんの疑いも持たなかった「高二病」時代、そしてP・K・ディックを崇拝していた「大二病」時代・・・
管理人は大学時代、全員が優をもらえる体育を含めて、数えるほどしか優をもらえなかったのですが(これが就職活動にも響いたようで笑、今でも単位が足りない悪夢をよく見る)、卒業論文だけは教授にもたいへん気に入ってもらえて、もちろん優をいただきました。
テーマは「P・K・ディックグノーシス思想」。(アメリカ文学専攻でした)
今回ご紹介する「ヴァリス」の影響を受けて、大学の図書館で「ナグ・ハマディ写本」の解説本など読み漁りました。
ユングも読みました。

まず、本書の重要なカギとなる「グノーシス主義」について、簡単あっさりとまとめてみたいと思います。
あらすじよりも、こっちの方が重要。
従来はキリスト教の一派(異端)と見られていたグノーシス、だからグノーシス「主義」という呼び方をされるのですが、ちょうど「ヴァリス」が執筆される少し前に発見された「ナグ・ハマディ写本」によって、キリスト教から独立した「グノーシス教」とでも言うべき別個の宗教らしいと解明されたっぽい。(同じころに死海文書も発見されてますね)
さて、ディックに強い影響を与えた、そのグノーシス思想の中身とは・・・
シンプルに言うと、この宇宙を作った神は狂ってる。
だから、この宇宙は狂ってる。
おうまいがーっ それではなんの希望も救いもないのか? というと、そんなことはありません。
宇宙を作った「創造の神」の上位には、真に偉大な「本物のグレートな神」がいるので、この方がいつか宇宙を修復してくれるし大丈夫。
学生時代の管理人に強い感銘を与えたグノーシス思想ですが、中二病もすっかり冷めた今になってみると、キチガイのタワゴトにしか聞こえません・・・
「ムウ」読者なら喜びそうだけどね・・・

さてP・K・ディックという作家は生活のためにSF小説を書いていたが、実は「神とは何か、この宇宙の真理に到達したい」という強い望みがあったのです。
それはもう作家と言うより宗教家。
そんなディックがついに、神からの啓示を受けて「ディック教」教典とも言える本書「ヴァリス」をものにした!
だが同時に、進行していたディックのメンタルな病が頂点に達した・・・
ハッキリいうと統合失調症。
ディック自身がこれまでの作品で重要なテーマとしてきた「精神分裂病」です。
自我の分裂、存在しない人物が見える。
電波や超短波などのテクノロジーによって思考が伝達される、あるいは自分の思考が読まれるという妄想。
CMや映画に隠されたメッセージを読み取ってしまう。(統合失調症の数学者を描いた実話映画「ビューティフル・マインド」でも新聞や雑誌にソ連の暗号通信を読み取っていましたね)
こういった描写が頻出、「ああやっぱりディックは狂ってしまったな・・・」と思わざるを得ない。
本書執筆の翌年、ディックは脳梗塞で亡くなりました。(享年53歳)
早すぎた死は惜しむべきか、それとも狂気が進行して晩節を汚さなくて済んで良しとすべきか・・・
本文中に「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」映画化の話が出てくるのが感慨深い。
これはもちろん後の「ブレードランナー」のこと。
映画の完成もヒットも見ることなく亡くなったのは気の毒ですが。

あらすじはそんなに複雑ではないが、あらすじを読んでも意味ないのです・・・
一応まとめますが。
主人公はディック本人。
SF作家として数々の賞も受賞、評価も高まったディックだが・・・
まず奥さんが息子を連れて出ていってしまい離婚、多額の養育費を請求される。
さらに女友達がディックの説得を無視して飛び降り自殺。
別の女友達も末期癌に犯され、やがて死亡。
こういう不幸の連続によってディックの自我は分裂、ホースラヴァー・ファットという「もう1人の自分」を生み出してしまう。
このファットがある日、ピンク色の光線を浴び、神?からのメッセージを受ける神秘体験に遭遇。(ウイキによると、これはフィクションではなく本当に体験したらしい)
この時からディックのためこんだ神学や哲学の知識と、神からファットの脳に送られる情報を融合して、「ディック教」の教義をノートにまとめるのだった。

この「教義」こそが本作の肝となりますが、これを簡潔にまとめる力はもうないので、興味のある方は本を買って読んでね・・・
グノーシス思想をメインに、仏教からユング、ドゴン族の神話までゴッタ煮。
ヴァーチャル・リアリティーという言葉のない時代に、「現実世界はホログラム」と看破したディックはさすがです。

ここから先は完全なフィクションでしょう。
その後ファットは、友人の勧めで「ヴァリス」という不思議な映画を鑑賞。
製作者は自分と同じく、神からのメッセージを受けている! と確信したファットは、「ヴァリス」を製作したミュージシャン夫婦を訪ねる。
彼らによると、神?の正体は「ヴァリス=生ける情報」らしい。
さらに夫婦の間に生まれた2歳の娘ソフィアこそは人類の救済者の転生であり、ディックの分裂した人格を統合してくれた。
が、後日ソフィアは事故で死亡。
彼女は救済者ではなかったのか? ちがったみたい・・・
というわけで再びディックから分裂したファットは、真の救済者を探して旅に出るのだった。
学生時代から年月が経って、距離を置いて読んでみると、やっぱりディックは頭がおかしいとしか・・・

ところでハヤカワから現在出ている新訳版、大瀧先生じゃないんですね・・・
今は絶版のサンリオから出ていた旧訳版ではクトゥルー神話でおなじみ大瀧啓裕先生が訳を担当。
巻末の用語解説がまた、読みごたえあるのです笑
ハッキリ言って本書の翻訳に大瀧先生以上にふさわしい方がいるとは思えないのですが・・・
これはもう、サンリオ版はお宝ですね。
絶対に手離せない。


フィリップ・K・ディック作品のネタバレ
「高い城の男」
http://puripuriouch.at.webry.info/201601/article_3.html
「ユービック」
https://puripuriouch.at.webry.info/201808/article_7.html
「火星のタイム・スリップ」
http://puripuriouch.at.webry.info/201209/article_33.html
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
http://puripuriouch.at.webry.info/201412/article_5.html
「最後から二番目の真実」
http://puripuriouch.at.webry.info/201710/article_11.html
「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」
https://puripuriouch.at.webry.info/201808/article_8.html
「死の迷宮」
http://puripuriouch.at.webry.info/201709/article_5.html
「流れよ我が涙、と警官は言った」
http://puripuriouch.at.webry.info/201508/article_1.html
「聖なる侵入」
http://puripuriouch.at.webry.info/201407/article_6.html
「ティモシー・アーチャーの転生」
http://puripuriouch.at.webry.info/201703/article_18.html

フィリップ・K・ディック原作の映画化作品ネタバレ
「ブレードランナー」
http://puripuriouch.at.webry.info/201212/article_10.html
「トータル・リコール」
http://puripuriouch.at.webry.info/201403/article_16.html
「マイノリティー・リポート」
http://puripuriouch.at.webry.info/201707/article_16.html
「ペイチェック 消された記憶」
https://puripuriouch.at.webry.info/201803/article_12.html



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